こんにちは、あんよメディア編集部のかなです。
今回は成長ホルモン分泌不全低身長症について稲垣先生にインタビューさせていただきました!
専門家紹介
稲垣晴代先生(ロイヤルベルクリニック)
専門:小児内分泌
<略歴>
昭和63年 名古屋市立大学医学部 卒業/名古屋市立大学大学院医学研究科 修了
名古屋市立大学病院/豊橋市民病院/国立豊橋病院/市立四日市病院小児科 医長
名古屋市立東市民病院小児科 副部長/名古屋市立緑市民病院小児科 部長
低身長
まず低身長の原因として考えられるものを教えてください。
一番多い理由として考えられるのは、病気とは考えにくいもので家族的に小柄であるということです。
例えばご両親、祖父母が小さい家系のお子さんは低身長になる傾向があります。
他には以下のような要因が考えられます。
- 甲状腺ホルモンの異常
- 骨の異常
- 心臓・腎臓の異常
- 心理社会的な要因(虐待によるネグレクト)など
- 妊娠期間に比べて小さく生まれてその後も伸びが遅い
- 成長ホルモン分泌不全性低身長症
- 染色体の異常
成長ホルモン分泌不全性低身長症
成長ホルモン分泌不全低身長症(以下GHDと記載)とはどのような病気ですか?
そもそも成長ホルモンは脳の下垂体から分泌されているのですが、
GHDの場合はこの成長ホルモン(GH)が何らかの原因によって分泌されにくい状態になっています。
GHDの定義
成長ホルモン分泌不全性低身長症(GHD)はGH分泌不全による低身長症で,
その他の下垂体ホルモン[TSH、ゴナドトロピン(LH,FSH)、ACTHあるいはADH]の
分泌不全を伴っていることもある(下垂体機能低下症)。
(出典:小児慢性特定疾病情報センター)
GHDの原因は判明しているのでしょうか?
実はGHDは原因が明確にわかっている例は少ないのです。
約5-10%は頭蓋咽頭腫という脳の異常があると言われています。
骨盤位分娩(逆子)、仮死、黄疸遷延なども原因になることがあります。
原因が不明な特発性GHDが多いです。
つまり、GHDは予防ができるような病気ではないことになります。
次に、GHDのお子さんの特徴を教えてください。
親御さんがよく言われることなのですが、GHDのお子さんは極端に背が低いです。
なので「運動会などでも自分の子供がどこにいるのかすぐにわかる」とおっしゃる方もいます。
低身長のお子さんの中で、GHDのお子さんの割合はどれくらいですか?
あくまでも私の経験ですが、低身長で受診されるお子さんの10人に1人ぐらいの割合です。
医療機関
もし「自分の子供が低身長かも?」と思った時はどの医療機関を受診すれば良いのでしょうか?
まずは小児科を受診していただくことです。
地域によっては保健所で3歳児健診が行われている場合が多いので、そこで低身長かもしれないという指摘を受けて受診する方が一番多いです。
また小学校に入学し、保健室の先生に受診することを勧められて来院する方もいらっしゃいます。
検査
GHDが疑われる場合、どのような検査を行うのでしょうか?
まず受診していただき、その後正確に身長体重を測ります。
ご家族皆さんの背が低いという家系のお子さんも多いので、
- ご両親や祖父母の代まで身長はどれくらいなのか
- 食べ物の好き嫌いはないか
- 普段から少食ではないか
- 生まれた時に小さかったか
- 逆子であったか
など、生まれた時の状況なども問診します。
その上で血液検査や尿検査、手のレントゲン撮影を行っていきます。
血液検査や尿検査では何をチェックするのでしょうか?
血液検査では以下のことを検査します。
- 成長ホルモンが正常に分泌されているか
- 甲状腺ホルモンは正常であるか
- 腎臓病などの慢性的な病気が隠れていないか
そして尿検査では
- 腎臓病の可能性
を検査します。
手のレントゲン撮影によってどのようなことがわかるのでしょうか?
手のレントゲン撮影をするとその人の骨の年齢を知ることができます。
例えば5歳と12歳の子の手のレントゲン写真を見比べると、5歳の子の手は骨と骨の間に隙間があります。
隙間があるということは、まだ身長が伸びる可能性があることを意味しています。
手のレントゲン写真(稲垣先生からのご提供)
血液検査や尿検査、レントゲン撮影を終えた後に行うことを教えてください。
血液検査などで成長ホルモン分泌不全が疑われる場合は成長ホルモン分泌刺激検査を行います。
この検査では、まず薬を投与し、投与前・投与後に以下の画像のように何度か採血を行い、成長ホルモンが分泌されているかを調べます。
現在は、この検査でホルモン分泌不全が証明されないと、GHDと診断されず成長ホルモン治療はできません。
(治療適用基準に関する参考サイト:成長科学協会-小児成長ホルモン治療適応判定)
治療における採決について(稲垣先生からのご提供)
この検査は何歳から受けることができますか?
身長が −3SDや−3.5SD ※2 など極端に身長の低いお子さんは3歳ごろから検査される方もいます。
※2 成長曲線における、-2.0SDから+2.0SDの間が標準的な範囲とされています。
(参考:日本小児内分泌学会)
3歳の時点ではあまり低身長でも不自由がなく、分泌不全刺激試験は多少痛みを伴うものですので、お子さんからしたらなぜ検査されているの?と精神的に負担がかかってしまうということもあり、3歳で検査することは難しいかもしれません。
その後小学校に入学すると、低身長が原因で走るのが遅かったりと他の生徒と差が出てきてしまうことがあります。
ですので、小学校に入学するまでに一度検査をすることをお勧めしています。
治療方法
GHDと診断された場合、具体的にどのような治療が行われるのでしょうか?
成長ホルモン治療を行うことになります。
成長ホルモン治療はどのような治療方法なのでしょうか?
成長ホルモン治療は毎日ご家庭で自己注射をしていただく治療方法になります。
ペン型の注射器を使って毎日行います。
治療方法は注射のみなのでしょうか?
そうですね。
現在は飲み薬などの服用する形の薬はなく、注射のみとなっています。
また注射は全てご自宅で行っていただくのですが、ペン型の注射器のダイヤルを回して打つだけなので、非常に簡単に打つことができます。病院でレクチャーも行います。
今までの私の経験ですと、この注射が嫌だからという理由で治療を辞められた方はいません。
まだお子さんが小さいと、ご両親などが注射することが多く、
「子供が寝ているときに注射したけれど全く起きなかった」とおっしゃっていた方もいます。
注射する場所や時間は決まっていますか?
はい、決まっていて、
注射する場所はお腹、太もも、お尻、腕のいずれかです。
また時間帯ですが、成長ホルモンは夜に分泌されると言われています。
そのため寝る前に打っていただくのがベストな時間帯です。
多くの患者さんがお風呂上がりなどに注射を行なっています。
治療期間
毎日自宅で注射するということは、病院を受診する頻度はどれくらいになりますか?
原則1ヶ月に一度は受診していただくことになっています。
この時に身長のチェックなども行います。
また、治療の副作用が出ていないかなどの確認は3か月に一度、もしくは1年に一度行なっています。
治療期間はどれくらいでしょうか?
成長ホルモン治療を始めると最初の1年は8㎝ほど身長が伸びます。その後身長の伸びはゆるやかになっていきます。開始した年齢とは関係なく思春期を迎えて骨年齢が大人になるまで続けます。
主に治療を終了するタイミングは2通りあります。
- 医学的には骨の年齢が大人に近づいた
- こども医療費助成制度の年齢を超えた
先ほど述べたように骨の年齢はてのレントゲン写真によってわかります。
そのため手の年齢が大人になるとこれ以上背が伸びないので、このタイミングで治療を終了します。
また、こども医療費助成制度には年齢制限が設けられているので、この年齢を超えたので治療を終了される患者さんもいらっしゃいます。
保険
先ほど保険の話がありましたが、成長ホルモン治療に関する保険について教えてください。
成長ホルモン治療は健康保険が適用されます。一定の基準を満たしていれば健康保険を使って何割かの自己負担で治療を受けることができます。自己負担分は子ども医療費助成制度で自治体が負担してくれる場合が多いので、例えば名古屋市の場合ですと、中学3年生までは無料で治療することができます。
ですが高校生になると3割負担となり、実際に月の自己負担額が約10万円以上になってしまいます。
そのほかに小児慢性特定疾患制度というものを利用することができます。これも医療費の自己負担分を補助してくれる制度ですが、この制度を利用するためには国の定める基準(より厳しい基準)を満たしていることが必要です。
健康保険と小児慢性特定疾患ではどちらも治療内容は同じです。
子ども医療費助成制度の場合、−2.0SD以下で低身長だと認められますが、
小児慢性特定疾病の医療費助成制度の場合は−2.5SD以下でないといけないなど、後者の方が少し基準が厳しくなっています。
そして対象となる年齢ですが、子ども医療費助成制度の場合は市町村によって異なりますが、小児慢性特定疾病の医療費助成制度は全国共通で18歳未満の児童が対象となります。
治療だけでなく検査なども保険の対象に含まれますか?
はい。
検査から治療まで保険適用となります。
Message
最後に読者の方に向けてメッセージをお願いします。
実際低身長かどうかは正確に身長を計測して平均と比べてどの程度低いのか?成長速度はどうか?などをみないとわからないので、まずは病院を受診していただくのが良い方法です。
また最近は、スマホでお子さんの身長が本当に低いのか、病院を受診した方がいいかどうかを教えてくれるWebサイトやアプリがあるので、それを使うのもいいと思います。
スマホアプリ「すくすく成長曲線」(稲垣先生からのご提供)