あんよメディア編集部のかなです。
今回は夜尿症を専門にされている吉田先生にお話を伺いました!
※記事の最後に夜尿症解説動画もあるのでぜひご覧ください。
専門家紹介
葵鐘会副理事長 吉田茂先生
専門:夜尿症
<略歴>
昭和62年 神戸大学医学部医学科 卒業/神戸大学医学部附属病院
兵庫県立こども病院/呉共済病院/神鋼病院/神鋼加古川病院小児科 医長
名古屋大学医学部附属病院医療経営管理部 助教授
名古屋大学医学部附属病院メディカルITセンター センター長
夜尿症とは
おねしょという言葉はよく聞きますが、おねしょと夜尿症の違いを教えてください。
まず、夜尿症は日本や海外の学会が定めた明確な定義があります。
つまり一般的によく言われる”おねしょ”と言うのは俗称で、夜尿症と定義づけられている5歳よりも前の3,4歳で夜尿をしていても、それは夜尿症とは呼びません。
5歳未満の場合はまだ病院に行かなくてもいいと言うのが主流ですが、夜尿に対する受け止め方はお子さんやご家族によって違うので、中には4歳で受診される方もいます。
夜尿症の原因
夜尿症になる原因はお子さんの体質が大きいのでしょうか?
そうですね。体質は非常に大きく影響します。
夜尿症のお子さんのご両親のどちらかに夜尿症があるという場合が6割ぐらい、そしてご両親のご兄弟まで含めると8割ぐらいが、家系のどこかに夜尿症の人がいます。
つまり原因の大多数が体質ということになります。
ということは、夜尿症には予防方法などはあまりないのでしょうか?
夜尿症にならないように育てるというよりかは、普通に育てていれば自然と夜中のオムツも取れていきます。あまり、一般的なお子さんは意識する必要はありません。
ですが兄弟やご両親自身に夜尿の経験があり、子供のおねしょが気になる場合は食生活など気をつけると良いでしょう。
例えば、夜ご飯に塩分や水分の多い食事は控えるなどです。
また、夜中に子供が熱中症や脱水になるのが怖いので、夜寝る前に水分をたくさん取らせたり、ベットサイドに水筒を持っていって夜中に水分を取らせる人もいますが、通常の家庭環境で、特に基礎疾患のない元気なお子さんが、夜中に熱中症や脱水になることはまずありませんので、そういう習慣は避けた方が良いでしょう。
また、夏場の冷房の掛けすぎにも注意が必要です。
通常、夏は、夜、寝ている間に汗をたくさんかくため、夜中の尿量が減って夜尿はよくなることが多いのですが、この時期に冷房を強く掛けすぎて寝ている間に身体が冷えてしまい、かえって夏場におねしょが悪くなる場合があります。
夜尿症の治療方法
夜尿症になった場合、どのような治療方法があるのですか?
夜尿という現象は『一晩に作られるおしっこの量を、膀胱が一晩溜めきれないから溢れかえる。そしてその時に目が覚めないから漏らしてしまう』ということです。
このことから考え、夜尿症を治す方法は3通りあります。
- 一晩に作られるおしっこの量を少なくする
- 膀胱がおしっこを溜められる量を増やし、たくさん溜められるようにする
- おしっこが出そうになったら目が覚めてトイレに行けるようにする
(※通常3番目の治療法を目標にして治療することはなく、朝まで我慢できることを目指します。)
実際の治療方法としては薬を処方したり夜尿アラームという装置を使用することもあります。
また、夜尿症治療では患者さんに記録をつけてもらっています。
私のクリニックでは夜尿カレンダーというものを使って、おねしょをしなかった日にシールを貼るということを自宅でやってもらいます。
そして診療の時に1か月の成績を点数にしてデータ化して月毎に比較しつつ診療をしていきます。
だから患者さんが外来に来るのは月に1回ほどです。
では病院で薬を処方してもらったのだが効果がなかった場合、何が原因として考えられるのでしょうか?
その薬がどういうものかにもよります。
例えば、おしっこの量を減らす薬を服用していたとしても薬自体そんなに強力なものではなく、もともと夜作られるおしっこが100だったとして、それをゼロにするわけではありません。
夜作られるおしっこの量がもともと100あったとして、70まで減らすことが出来たら、その薬は効果を発揮していることになります。
ですが、そのお子さんが70のおしっこを一晩溜められなかったとしたら、患者さんにとっては一見薬が効いていないのでは?と思うわけです。
その場合、次にどのような治療方法に変わるのですか?
先程の例でお話しすると、おしっこの量は70までに減っているわけですから薬は効いていることになります。つまり、この薬の服用をやめてしまえばまたおしっこの量が100に戻ってしまいます。
ですから次は、この少なくなったおしっこを朝まで溜められるようにするために、膀胱がおしっこを溜められる力をつける治療をします。
ここで使うのが夜尿アラームという装置です。
これはおしっこが出たら大きな音が鳴り、刺激してあげるというものです。
夜尿アラームを使って寝ることで、夜寝ている間に大きな音を聞きたくないから我慢しておしっこを溜めよう、ということを無意識にトレーニングすることができます。
またこのアラーム以外に、膀胱に働く薬もあるのでそれを使用することもあります。
この薬はおしっこの出口を閉めやすくして出そうになった時に我慢できるようにする薬です。
なお、最近の私たちの研究結果から、アラーム治療を最初に行ったほうが早く治る傾向にあることが分かったので、お子さんの夜尿のタイプにもよりますが、アラーム治療を優先することが多くなっています。
実際に夜尿症は治るまでにどれくらいの期間がかかるのですか?
夜尿症自体すぐに治るというものではなく、私が診ている患者さんの平均的な治療期間は1年半〜2年ぐらいです。
アラームを使ったり、ちょっと薬を飲んだらあっという間に治る、というわけにはいきません。
薬を飲んで良い状態を数か月続けて、その後徐々に薬の量を減らしていくっていうことなので、一旦薬を飲み始めたら数か月以上は使うということが原則です。
アラームの場合も、最低でも4-5か月は使用を続けます。
市販されている薬や漢方などで夜尿に効くと書かれているものがあるのですが、
実際に効果はあるのですか?
まず市販の薬と病院で処方される処方箋のいる薬は異なりますので、一般的に夜尿症の治療に使用する薬は販売されていません。
市販薬の中には漢方薬も含まれますが、実際に病院でも漢方薬は処方しますし、漢方薬の中にも多少は夜尿症に有効なものもあります。
ですが、薬の使う順番としては4番目か5番目ぐらいです。一番初めから漢方薬を使うということはありません。
なので夜尿症かもと心配の方は病院を受診するのが一番良い方法です。
実際に子供がおねしょをしてしまった時の対応方法にコツなどはありますか?
まず、原則として漏らしてしまったことに対しては怒ってはいけないというのが鉄則です。
夜中寝ている時のことなので、本人が意識してやっていることでもなければ子供の不注意でもありません。
子供本人の責任でもないので怒ってしまうと、逆に子供の心理的な負担になり夜尿に影響をもたらします。
ただし、漏らしたことに対して怒るのではなく、おねしょの原因になった本人の不注意な行動に対しては、しっかりと指摘するようにしましょう。
例えば、「寝る前は水分控えようね」と言ったのに水をごくごく飲んだとか、
「寝る前ちゃんとトイレ行きなさいね」と言ったのに、おしっこせずに寝て失敗してしまった、などです。
医療機関
子供が夜尿かもと心配になったら病院を受診した方が良いのでしょうか?
夜尿症を治すことは単に治ればいい、というわけではありません。
年間で10人に1人ぐらいの割合で治療をしなくても自然と治ります。
それが治療をすることで年間で2人に1人、50%ぐらいの確率で治るので、治療することによって治る確率が高まります。
また、一番大切なことは、病院に来て自分で積極的に治そうとして治ったという、『子供の頃に自分はおねしょを治した記憶』が残ることです。これが子供の自信にも繋がります。
医療機関としては小児科を受診すれば良いのでしょうか?
それとも泌尿器科なのでしょうか?
夜尿症を専門にしている小児科医でも泌尿器科でもどちらでも構いません。
小児科医の中にもいろいろな専門領域がありますが、通常の小児科クリニックならば夜尿症を診ないということはないと思います。
ですが得意としない先生がいらっしゃるのも事実です。
『おねしょ卒業プロジェクト』や夜尿症学会のホームページを見ると、全国のどこに夜尿症を専門にしている先生がいるかを知ることができます。
それをみてその先生のところに行くのが一番いいですが、残念ながら、患者さん自身の近くにいるとは限りません。
また近くの病院のホームページなどに子供のおねしょや夜尿症と書いてある場合は、そこを受診するのも良いと思います。
さらに、泌尿器科でもその病院が子供の夜尿症も診ているかどうかが大事になってきますね。
なので泌尿器科が近くにある場合は、看板やホームページを見てみて、そこに小児や夜尿症専門と書いてあるか確認してから受診すると良いでしょう。
Message
最後に読者の方に向けてメッセージをお願いします。
『おねしょは放っておいても治ると言われ、なかなか治らなかったけど気がついたら治っていた』ということもよくあるパターンですが、この場合子供は、何もすることが出来なかったという無力感を感じてしまいます。
夜尿症を病院に来て治すということは、自分で積極的に治そうとし、1,2年かかったけど治した=「子供の頃に自分はおねしょを治した」という経験も大事になってきます。
先ほども述べたように、夜尿症の治療で最も大切なことは治療によって治るということが子供の自信につながるということです。